penseful days

日々の生活にちょっと役に立ちそうなことから,あまり役に立ちそうにないことまで考えたいと思います.

まるで呼吸をするかの如く

 研究発表会の数日前,切羽詰まっていた僕は珍しく太陽よりも早く動き出した.

 

 まだ表も暗い中,マックの店内でうつらうつらとしながら原稿の準備をしていると,隣の席に見覚えるのある女が座った.彼女のことは一方的に知っていた.夜遅くに店に行くと割合に高い確率(それは急いでいる時に限って電車が遅延している確率よりも少しばかり高い)で遭遇するからだ.

全身黒ずくめの彼女はいつも大きなリュックを背負い,一人でずっと居座り(つまり僕も居座っている),そしてぶつぶつと独り言を話している.あるいは誰かと会話をしているのかもしれない.彼女にしかわからない誰かと.

 

 僕の隣に座った彼女は,リュックから袋に入ったジャージを取り出しトイレに向かった.そして,それに着替えて戻ってきた.依然大きなリュックから彼女は,ヘルメットを取り出した.そしてそのヘルメットには〇〇警備と書かれていた.

 

 そう,彼女は警備員の仕事をしていたのだ.

 

 いつも夜遅くまで働いている彼女は,朝もこんなに早くから動き出している.僕は切羽詰まってようやく朝から動いているのに,彼女はまるで呼吸をするかの如く,さも当然のようにやってきては姿を消した.

 

 僕はなんとも言えない気持ちになった.